うるせえ、玉の輿。



焼肉食べ放題は、並べられた肉を自分たちで取りに行き、焼いて食べて食べて食べて。
アイスが死ぬほど硬くて、自分たちでくり抜くのが難しい。お肉はペラペラで薄くてすぐに焼ける。
飲み放題を付けると千円も高くなる。

会社の年配の社員たちは、安くておいしくないし質も悪い、隣の市の焼肉食べ放題の方が美味しくて肉もいいという。

だけど、私は、小学生の頃にここの焼肉食べ放題の前を通るたびに匂いを覚え、空腹のときに目を閉じて味を思い出していた記憶がある。

ここで肉をお腹いっぱい食べるのが、夢だった。

いつしかその夢は、施設に入ったときに長期休暇のたびに業平のおじさんおばさんが隣の市の焼肉食べ放題に連れて行ってくれるようになるまで続いた。

それでも昔の記憶が、私にこの焼肉食べ放題をまるで天国のように大げさにはやし立てるのである。


「焼肉食べ放題は、牛肉です。鶏肉は駄目、なかなか火が通らない。元を取るなら、それでいて日ごろ食べられない牛肉を食べるんです!」

「うんうん。麻琴ちゃんの食べ方は清々しいね。いいよー」
「タッパ可なら! 一か月分の肉を持ち帰りたいところ、一か月分の肉を食べることで我慢します」
「いいねーいいねー」
社長は嬉しそうに、おにぎりを食べている。

カーッ!
米はお腹にたまる。肉を食わんかい。

そんな山盛りの肉を食べて、天国にいた私に、電話がきたのだ。

90分の大切な時間に。


< 102 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop