うるせえ、玉の輿。



ジム……?

「お前さん、朝帰りになるかもってジムかよ」

驚いた私に対し、業平から返事はない。
くぐもった悩まし気な声だけが響いている。

肉。さよなら、私の初恋の肉。

「社長。婚約者が、手籠めにされてるようなので、行きます」
「ええ、大丈夫?」
「だ、だ、い“じょヴでずずずずずず!」

「顔が大丈夫じゃない」

社長に何度も頭をさげ、30分もいなかった肉屋にさよならを告げると、私は駅まで走った。

業平は、男は抱いたことないって言っていたっけ?
直前に怖気ついて、逆に抱かれているのかもしれない。

業平が危ない。
私はただひたすらに、身体にまとわりつく肉を追い払いながら、ジムへと向かった。


高級ホテルの道路挟んで前に、ジムがあるのはいかがなものか。

外国人の綺麗な女性が、腹筋をちらつかせながら歩いている大きな看板の下、一階は筋肉トレーニング、二階はプールやヨガ、など。
業平みたいな香水のいい匂いではなく、なんとなく暑苦しそうな匂いがする。

「た、頼もう!」
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