うるせえ、玉の輿。
虹村社長は、表情が豊かで嘘が下手な人だ。
少しでも嘘っぽいそぶりを見せたら、僕は彼を許せないだろう。
だから真剣に見つめる。
すると、息を飲んだ虹村社長はやがて眼を閉じて深くため息を吐いた。
「私は、麻琴ちゃんの魔法使いよ。それだけ」
「じゃあ、俺があの人を好きになってもいいんですね」
探しな、しげきするなと言われたけど、そこだけは我慢しない。
社長は、手で口を覆うとなんとも言えないような、感慨深い顔をしている。
「うーん。こうも上手くいくとは思わなかったのよねえ」
「何がですか?」
「でも麻琴ちゃんの可愛さは、内面もだし。見てくれる人にはすぐわかるって思っていたのよ」
ブツブツと言っている言葉は、どうやら俺に言っているのではなく自分の思考の整理をするために呟いているようだった。
「あの、社長?」
「ええ。貴方が誰を好きになっても、私が邪魔する権利はないわ。応援はしても、ね」
疲労した顔でウインクした後、いつもの荷物を渡してくる。
台車に乗った段ボール二個を、あて先と重さを確認して預かる。
でも今日はそれだけで終わらせたくなかった。
「邪魔しなかったこと、後悔しないでくださいね」
念を押すように言うと、社長はただ寂しそうに笑うだけだった。