うるせえ、玉の輿。


「はい。津津村 丞爾(つつむら じょうじ)です。この町に来てまだ一年なんで、よろしくお願いいします」
「ジョージさん」

声が柔らかくて、そして優しい。
にこにこ笑っているのかな。
裏表が感じられない、嘘を吐くのがへたくそなまっすぐな人。
業平が好きそうな純情な子だ。

「ジョージさん、彼女はいるの?」
「いません。なんか、いっつも友達どまりなんですよね」
「じゃあ、彼氏は?」

業平のために、サインは書き終わったけど会話を続けてしまった。
扉越しなのに、ジョージさんからは嫌な様子が感じられなかった。

「あはは。面白い方ですね。俺は男性にも女性にもモテませんよ」

そんなことない。絶対にこんないいひとオーラの人がモテないわけない。
この人、もしや分かっていていい人ぶって業平の気持ちをもてあそんでいるんじゃないでしょうね。

文句言ってやろうとドアの前に立つ。
でも、ドアを開けようとすると頬がひりひりと痛んだ。

殴られてもないのに頬が痛んだ。

ジョージさんは良い人そうだったのに、ただ背が高くて見下ろされただけで、私は彼を見ることができない。

「サイン終わったので、クッキー貰ってください」


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