うるせえ、玉の輿。



 振り返ると、突堤の上をまるで陸上部の大会のような、弾丸のような、いやロケットのようにこちらに走ってくる影が見えた。

ピンク色のシャツ、途中でピンク色の帽子が海に落ちても、速度は落とさずにこっちに走ってくる。

「うおおおおおおおお、はやまるなああああ」

「ひいっ」

コンクリートの突堤の上なのに、砂煙か湯気を身にまとってやってくるピンク色の物体に、恐怖しか浮かばなかった。
殺される。いや、海に突き飛ばされる。

ぎゅっと目を閉じたら、その弾丸野郎は私の腰に飛びつくと、いきなり押し倒してきた。

「は? へ、変質者!」
「早まらないでください!」

肩で大きく息をしながら、帽子を海と落としながら、途中、靴を片方放り投げながら、全力で走ってきて私を押し倒した人。

その人が、泣きそうなくしゃくしゃの顔で私を見降ろしている。

「そんな、そんな可愛くて、ずぶとくて、家庭的で、一途で無垢で、貴方は素敵です」

「押し倒しながら言う台詞じゃないんじゃない? ジョージさん」

汗を額に浮かばせ、荒い息と泣きそうな顔、そして視界の隅に道路の端に止まったフラミンゴ宅配のトラックを見る。

なぜ釣り場で彼に押し倒されなきゃいけないんだ。

「素敵だから、自殺なんてしないでくださいって言ってるんです!」

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