うるせえ、玉の輿。


「良い人ですねで終わる人だと母に言われたことはありますね」
「良い人だよ。私の夜ご飯を駄目にしてくれた、優しい素敵な人だよ」

釣り場のおじさんに頭を下げると、餌と釣り竿代を返してもらっただけじゃなく冷凍のイカまでもらってしまった。天ぷらにしたい。


荷台ではなく助手席に座らされシートベルトまで装着され、私はこの綺麗の具現を見つめる。

「俺は、虹村社長のためならなんでもする、健気な貴方がとても綺麗だとおもいます。虹村社長のためなら俺を傷つけてもいいって、平然と言ってのけた貴方は、迷いなく綺麗でした」

エンジンをかけてハンドルを回しながら、寄せていた車を発進させる。

それを見ながら、耳まで真っ赤なこの人を見る。

「麻琴さんは、心も綺麗な人ですよ」

熱い衝動。

真っ白なキャンパスに、一番最初に書かれる線。

綺麗な水に、ポトンと混じる黒いインク。

美しいを侵食する黒。

私は、その瞬間、そんな映像が思い浮かんだ。

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