うるせえ、玉の輿。

「あれ、トイレ行かなくてよかったの?」
 私の複雑な気持ちなんて全く分からない麻琴ちゃんが、いい匂いのする味噌汁を私の顔の横に置いた。

 ご飯は悪くないし、目の下の隈にもいい。
 ここは胃袋を掴まれて誤魔化されるしかない。

「わ、やっば。見て、業平」
 繋がった大根を箸で掬って、ケラケラ笑う。
 私は、そんな色気のない麻琴ちゃんが世界で一番可愛いと思っている。
 だから貴方が誰かのものになった瞬間、私はいったいどうなってしまうのか、想像がつかなくてちょっとだけ怖くなってしまった。



 麻琴ちゃんはまだあと二日有休があるらしく、私の見送りをしてそのあとは畑を弄るらしい。

 本当に家にいるのか心配で胃が痛くなる。

「ああ。今日と明日、同居人を監禁してもいいと思わない? 副社長の直澄くん」
「仕事をしろ、仕事を」

企画書で、パンっと額を叩かれて正気に戻った。
営業企画室のメンバーと、今年の冬に売るコスメの打ち合わせをしている最中だったのだけど、仕事中でも麻琴ちゃんがどこかに行っていないか気になってしまうから私は少し異常だ。

「コスメやめて、バレンタイン戦力で惚れ薬と媚薬作らない?」
「うちは魔法調合会社かよ」

魔法調合?
そんな言葉が速攻で出てくる直澄に噴き出すと、再び額を叩かれた。


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