うるせえ、玉の輿。

Side：穂村　麻琴

そばを茹で終わり、商店街のおばあちゃんに分けてもらったぬか床で白菜と人参と胡瓜をつけたので、取り出し、残りは天ぷらを揚げるのみ。

海老天と蓮根と茄子。
抹茶塩で食べる予定の、新鮮で美味しい天ぷらを目の前にお腹が鳴りそうだった。

「もー。遅い。遅すぎるぞ、業平」

早く帰ってこい。早く帰ってこいよー。

携帯とにらめっこして、業平の名前が出てくるのを待った。
けれどいつまで経っても画面は何も出ない。

……業平は、朝起きたら何事もなかった。
私のキスに気づいていなかったんだ。
それは安堵していいのか、なんだかよくわからなくて気が抜けてしまう。

私は、業平の人生に邪魔になった瞬間に消えたい。
けれど、必要とされていた場合、どうしたらいいのだろう。
どこまでその言葉に甘えていいんだろう。

そんな悩むほどでもない悩みの前で一人唸っていたら電話が鳴った。
携帯ではなく、家電の方だった。

それは……出ていいのかな？
虹村家の家の電話を、居候の私がとっていいのかな。
電話の前でうろうろしていたら、液晶画面に名前が出てきた。

『ツツムラ　ジョージ』

ジョージさんからなら、まあいいのかな？
「はい、麻琴です」