うるせえ、玉の輿。
『……ああ、そっちかあ』
なぜか聞こえてきたのは、ふんわりした気の抜けたジョージさんの声じゃない。
鋭い、刺々しい声。
「だれですか?」
『あー、俺? 俺だよ、俺』
「オレオレ詐欺かよ。だっせ」
死ねよ、と捨て台詞を吐いて、電話を切ろうとしたら、受話器の向こうで笑っていた。
「えー、いいの? 俺、襲っちゃうぞ。ジョージくんを」
「……貴方、だれ?」
聞いたことのない声。悪意のある笑い声、バカにした話し方。
不快で攻撃的で、大嫌いな雰囲気だった。
『俺はー、穂村 多由太』
その言葉に、ぞくっと背中に悪寒が走る。
父の名前だ。いや、父と名乗ってほしくないぐらい大嫌いな相手の名前だ。
「死んだ人間が、何の用?」
『うける。嘘だよ。こんな格好いい声が、お前のくそオヤジなわけないじゃん。信じたの?』
「悪戯電話なら切りますけど」
『ジョージ君、すっげえ酔っぱらってるよ。切ったら、俺、何するかわからないけど』