うるせえ、玉の輿。


咄嗟に口を覆ったけど、受話器を置いてこっちを向くまで数秒かかった業平が何を考えているのか分からなない。

「麻琴ちゃん、ごめんなさいね。丞爾くんが山田太郎くんと飲んでて泥酔したらしく」
「ん? 直澄って人でしょ?」
「山田太郎じゃなかった。名無しの権兵衛クソ野郎と飲んでたらしく、泥酔して歩けないらしいから迎えに行ってくるわ」
「……うん。業平が行くんだ」

どうしても名前は呼びたくないぐらい嫌いな相手らしい。
まあそれなら仕方ないけど、でも、そこまで露骨に嫌いなアピールしなくてもいいのに。
相手が若干可哀そうに感じてしまう。

「はあー。何が目的なのかしら。はっ もしかして私の体目当て?」

面倒くさそうに靴を履いていた業平が、青ざめる。

「どうしよう。麻琴ちゃん、包丁持って来てくれないかしら」
「あのね、素人は包丁よりハサミの方が殺傷能力高いらしいよ」

私はそっと、お肉を切るように買って使い道がなかった新品の包丁を渡した。
これなら私が買った挟みだし、なにかあっても業平は疑われないはずだ。

「ありがとう。もしもの時は、相手のちんこをちょん切ってくるわね」
「うん。帰るとき、また電話してー。天ぷらあげるから」

「うん。そうするわ」
「あ、お風呂掃除してこよ。業平、行く前に悪いんだけど物干しざおが落ちたから上げといてほしいんだけど」


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