うるせえ、玉の輿。


繁華街の看板もないビルの、隠れ家。
それだけで嘘臭いのに、業平がここに迷わずに入っていったってことは、あいつも遊びなれてるってことだ。

虫さえも殺せないようなふりをして、あいつ。

「ちょっふざけないで」
「業平!」

虫は殺せないが遊びなれている業平の叫び声に、両手にはさみを握って走った。

「業平っ 無事かっ」
「あんっ なん、で、麻琴ちゃんがっ」

私を見ている業平の体制に、固まった。
業平は高級そうな真っ赤なソファの上に仰向けに倒れている。
その上に覆いかぶさっているのは、知らない眼鏡をかけた男。
その男を後ろから抱き着いて引きはがそうとしている真っ赤な丞爾さん。

なんともカオスな様子だ。

テーブルには見たこともないブランデーの空き瓶が数個。床にも転がっている。

食べ散らかしたおつまみを足でつぶしたのか、ココナッツやチーズが床に散らばっている。

「えっと、さんぴーってやつ?」
「違うわよ! 襲われてるのっ」
「だよね」

業平を襲っている男の手に、注射器を掴んでいたので目を見開いた。

「あんた、私の業平に怪しい薬でも使うつもり?」
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