うるせえ、玉の輿。

「違うよー。この注射の中身はお酒。直接血管に注いだら、すぐに酔って彼みたいになるんだよ」
「酔ってらい! 俺は酔ってなんらない!」

必死で丞爾さんは注射器男に抱き着いているが、酷く酔っているようで呂律どころか力も上手く入っていないようだった。

「分かった。あんたを私が退治する」
「ちょっとまって。俺は業平に危害を加えるつもりはないよ」

眼鏡の男は、ふわふわの蜂蜜みたいな髪を掻き上げながら困ったように笑う。
ごつごつした指輪、何個も開けられたピアス。
見るからにチャラそうな男が嘘臭い笑顔で私を懐柔しようとしている。

「私が嫌いなのは、嘘を吐く男。香水が臭い男。酒を飲みすぎる男。無理やり、相手を押し倒す男」
「ありゃ、俺、ほぼ当てはまるじゃん」

「もし私が来なかったら、業平を襲ってたんでしょ。分かるわ。業平は綺麗だもの。心の汚いお前は卑怯な手でしか押し倒せないでしょ」

私ははさみを持つ手に力を込めた。

「いや、違うって。大学時代からずっと一緒にいた業平に、どうも執着しちゃってさ。一回抱いてみたいな、抱けるかな、やってみよう、ってチャレンジだよ。勃たなかったらやめるから、ちょっとだけ試させてよ」
「ひいい。恐ろしい。キモイわ。きもすぎる。私は丞爾くんしか抱けないのに」

「分かった」

ハサミを一つ、顔に投げつけた。
すると眼鏡にあたって音を立てて床に落ちていく。

「シザーハンズ、麻琴。髪を切らせていただきます」

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