うるせえ、玉の輿。
Side:穂村 麻琴
シャンプーのいい匂いがする。
香水なんてつけてなくても、この人はいい匂いがする。
甘くて、人を幸せにするような匂いがする。
「ねえ、麻琴ちゃん」
「聞きたくない」
「私じゃ駄目かしら」
「聞こえない」
駄目じゃない。ふさわしくないんだよ、私が。
遺伝子的に駄目なんだよ。
好きだけど、それは恋愛の好きじゃない。
私じゃ、駄目なんだ。
「業平は、お姫様で王子様で、誰よりも徳を積んできた人だから、私じゃない人と幸せにならないといけない」
「私もあなたのことをそう思ってるのよ。今まで苦労してきた分、お城でケーキばっか食べてるような幸せなお姫様になってほしいって思ってるのよ」
だったらここで終わろう。
成立させて。
私と業平じゃ、駄目だって。
「私じゃあ貴方をお姫様にしてあげられないわ。私じゃ駄目だって、だって私、可愛いものが好きで、男らしくないでしょ?」
「私だって、そう。私じゃ幸せになんて」
言い終わらないうちに、抱きしめられた腕が強くなる。
温かい熱が、私を包み込もうとしていた。
「どうして、急にそんなこと言うの。昨日までは上手く言ってたのに、どうしてそんなこと言い出しちゃったんだよ、ばか」