うるせえ、玉の輿。
「私のことは良いってば。邪魔なら明日にでも出ていくけど」
冷蔵庫からケーキを出しながら言うと、業平は大げさに首を振った。
「いやよ。こんな大きな家で一人って寂しかったの。麻琴ちゃんならずっといてほしい。……ただ結婚は、愛する人としてほしいわ。プロレス技で脅さなくても、結婚したいって土下座してくれるような男の人と」
「……うん」
土下座して結婚する男って、どうよ。
でも、つまりまあ、やっぱり業平は私と全く結婚したい気持ちはないらしい。
結婚はしたくないけど、一緒に居たいって、それはそれで我儘だと思う。
でも私にはその我儘が、生命維持装置のようで助かっている。
「ねえ、業平。ケーキ何等分にする?16等分にしたら一週間は食べれるけど」
「けち臭いこと言わないで、半分よ。半分に切って食べましょう!」
業平が買ってくれたケーキは、駅前にできたお洒落な横文字のケーキ屋さん。
商店街のアットホームなケーキ屋ではなく、外国の風景の写真が壁一面に飾られているお洒落で敷居の高いケーキ屋のフルーツタルトだった。