うるせえ、玉の輿。
「わあ、虹村社長、すいません」
ピンクのTシャツが、今にもはち切れそうな筋肉の彼は、私を見つけるとダッシュでやってくる。
申し訳なさそうな、泣き出しそうな顔は、可愛い。
「どうしたの? 今日はお休みでしょ」
「はい。なので、先日のお詫びにお菓子を、社長に渡してほしいなって受付の方に頼んだのに、社長呼ぶから慌てちゃいました」
「ふふ。よく指導が行き届いてるでしょ」
丞爾くんが来たら私を呼ぶように、受付には伝えている。
ただでさえ忙しい今の時期に、彼とすれ違いたくないから。
「あら、このおせんべい、大好きなのよ。貰っていいの?」
「……はい」
なぜか神妙な顔で、丞爾くんは頷く。
その様子が可愛い。怒られたハムスターみたい。
「その、先日の、その、あの、虹村社長の部屋のドアを壊した件で、弁償したいので、お時間いただいてもいいですか?」
「弁償……。いいのよお、あんなの、取っ手が外れただけでしょ。私の知り合いに作ってもらったドアだし、ほんの数十万で修理できちゃうわよ。いいのいいの」
「ひっ 数十万……!」
ドア自体を新しくするしかないので、デザインとか色を変えてみたいだけで、本当なら珍しい素材としても数万で修理はできるはず。
「まあ……丞爾くんが、身体で払ってくれるって言うなら、私、全部チャラにしちゃうわよ」