伝えたい。あなたに。"second story"
いつものように回診をしていると。



どこからか大きな音が聞こえた。
誰かの大きな声とともに。



病院で大きな声を出すことなど、ほとんどない。
そしてすぐに、外が騒がしくなった。



患者さんの診察を終えて廊下に出てみると、見覚えのある病室に数人の看護師が入って行った。



『広瀬先生!来て下さい!』



慌ただしく呼ばれる。
その病室は、ゆうかちゃんの部屋だった。
ベッドに小さくうずくまるのは紛れもなくゆうかちゃんだ。



『ゆうかちゃん、大丈夫?』



声をかけても届いていないようで。
体がわずかに震えている。



先ほど聞こえた大きな音と、大きな声とこれが何か関係あるのか。疑問に思いながらも、ゆうかちゃんの状態に注意を向ける。



聴診器を入れようとするだけで、すごく拒絶された。



こんなに嫌がっていただろうか。



拒む手を押さえて診察する。



『バイタル全部あげて。』



何が理由かわからない。
血圧、脈拍、酸素飽和度、大きな異常はない。



身体の震えは?



胸の痛みは?



看護師が呼んだのであろう別のドクターが入ってきた。北見先生だ。



『広瀬先生、どんな状態?』



『バイタル異常ないんですけど、理由がわからないんです。』



『ゆうかちゃんの最初の状態見てた人は?』



北見先生が周りに向けて言う。
ゆうかちゃんが安定剤により落ち着きを取り戻す中、一人の看護師が答えた。



『佐々木研修医が、ゆうかちゃんの態度に激怒して、机を叩いて、大声で怒鳴ったんです。それで、パニックになってしまって。』



『態度に怒鳴ったの?』



北見先生が聞き返す。



『はい、佐々木先生の聴診にゆうかちゃんが痛みを訴えて、それが逆鱗に触れたみたいで。』



『聴診が痛いことある?』



『ちょっと雑だったんです、無理やりやったというか。』



だんだん雰囲気が悪くなってきた。
俺だけでなく、北見先生の逆鱗にも触れたようだ。



『広瀬先生、後任せてもいい?』



『はい。大丈夫です。』



これは、山瀬先生激怒案件になる。
というか、病院問題になりそうな気がしてきた。



まずは、ゆうかちゃんがなんとか落ち着いてくれたのが何よりだ。まだ、佐々木がゆうかちゃんにどんな言葉をかけたかはわからないが。
< 16 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop