伝えたい。あなたに。"second story"
平穏な日々が続いた。



山瀬先生とたくさん話をしたからだろうか。



あんなに怖かった診察も、大分普通に受けられるようになった。



前の生活に戻ったみたい。



原因不明の息苦しさ以外は。



まだ誰にも言ってない。



病気でもなさそうだし。



喘息の発作でもない。



はぁぁ。



言ったほうがいいよね。



この頃は言わない方が迷惑をかけることに気付いていた。



今流行りの、匂わせ戦法で行こうと思う。



いつも通り、回診の時間がやってきた。



『今日は変わったことは?』



『うーん、ちょっと息しづらい。』



いつもちょっと、少しと副詞をつけるのは癖だと思う。


『息苦しいの?ちょっと診せて。』



いつもより長い聴診だった。



先生の表情に気を配る。



『なんともないけどね。いつから?』



『昨日の夜くらいから』



初めて患者と医者らしい会話をしている気がする。



『うーん、貧血とかでも息苦しくなったりするからね。』



下まぶたを見ながら言う。



『血液検査しとこうか。』



ドキッとする。



血液検査。



あの日以来一度もしていない。



思い出したらだめ、もう忘れなきゃ。



『先生がやるから大丈夫だよ。』



私の顔を見てわかったのか、そんな風に言ってくれた。



よかった。



最近の先生の心遣いには本当にキュンキュンさせられる。



こんな人と結婚できるかもしれないなんて、これ以上の幸せがあるだろうか。



『じゃあ準備してくるから待ってて。』



ウキウキしてると足元をすくわれることに、未だに気付いていない自分にそろそろ釘を刺して欲しいものだが。








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