伝えたい。あなたに。"second story"
最後の一段さえも、乗り越えられなかった。



まだ、、、まだ、、。



大丈夫。



『あなた、もう二度とゆみに近づかないでよ!』



後ろから聴こえてくる母親の声。



どう思われたっていい。



平衡感覚が失われ、視界が歪む。
自分の呼吸音だけが、頭に響く。



ここが階段だということも忘れて。
手すりから手を離した。



バタバタバタバタッ



、、、。




さっきよりもずっと強い痛みが走った。
また階段から落ちたんだ。



床に倒れても、視界がぐるぐると回る。
子供の前で、情けない。



上がった呼吸を整えながら、座り直す。
壁に体を預け、自分の手を見つめた。



焦点が定まらない。
手のひらが異様な動きをしている。



誰か先生呼んできて!、、、
周りは焦っているようでも、なぜか自分は冷静だった。



『何があったの?』



その声に聞き覚えがあった、、、。




視線だけを写すと、そこにいたのは、もう二度と会いたくない人物だった。


佐々木真人。



あぁ、あの人だ。



『大丈夫?どこか怪我した?』



『いいえ、なんともありません。』



きっと、この人にとって私は疫病神だろう。
明らかに嫌そうな顔をしている。



『階段から落ちたの?気をつけなよ。』



そう言って何も診ることなく、彼は立ち上がって、



『大丈夫そうだから、誰か病室に連れて行ってあげて。』



そう言い残して姿を消した。



もちろん、私の状態は何も変わらない。
視界がぐるぐると回り、壁によりかかっていなければ、座ることもままならない。



遠くでは、数名のスタッフが先ほどの母親に頭を下げているのが見える。



床に生えつくばって、ゾンビのように戻る。
その選択肢しかなかった。



途中で本当のゾンビになるかもしれない。
そんなふざけたことを考える余裕があるなんて意外だった。



『立てますか?』



看護師さんが支えようとする。
できるかできないかじゃない。
やるかやらないか。



今の状況にあてはまるかはわからないけれど、やってみる。



手を借りて立ち上がる。
脇腹の痛みは激痛に変わった。



我ながら、痛みには耐性ができた。
歩みを進める。



一段一段。



一歩一歩。



ポーカーフェイスはこういうときに役立つのだと思った。
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