伝えたい。あなたに。"second story"
久しぶりのご飯はとても美味しかった。



今日はたまたま、社員さんとの食事会も重なっていたようで、賑やかな方がいいと母が私と山瀬先生を招いたらしい。



見渡すと山瀬先生の姿がない。



どこに行ったんだろう?



『ゆうか、山瀬先生部屋に戻ってるから、これ持っていってあげて。』



母に渡されたのは、パジャマ代わりの着替えだった。



なんで私が、、。



コンコンッ



一応ノックをする。



返事はないが、とりあえず開ける。



いつもの山瀬先生と同じことをしてみる。



山瀬先生はベッドで寝ていた。



夜勤明けなのに、申し訳ないことしたな。



着替えを置いて、山瀬先生の寝顔を観察することにした。



私はすでに良く見られていると思う。



特に何も起こらない。



『いつもありがとう。』



小さな声で囁く。



きっと聞こえていない。



寝ているんだから。



私もお風呂に入ってゆっくりしようと、部屋を出ようとする。



『どういたしまして。』



驚いて振り返る。



起きてた。



恥ずかしくなって、急いで部屋を出る。



『ちょっと!』



その声を背に走って部屋に戻った。



でも、その頃には恥ずかしさより、息が苦しいことに気付いて。



ケホッケホッゲホゲホ、、



喘鳴があったんだった。



走ったらまずいんだ。



でももう遅い。



薬は手元にない。



ベッドに寄りかかるようにして、床に座る。



ケホッケホッ



やってしまった。



窒息したらどうしよう。



ゲホゲホゲホゲホ



苦しい。



先生に助けを求めるしかない。



一度来た道をもう一度戻る。



そしてノックもせずに入った。



『先生、、ケホケホッ、、苦しい、ケホッケホッ』



驚いた顔をしている。



『発作出てんじゃん、走ったの!?』



うなずく。



『おいで。』



そう言って私をベッドに運ぶ。



背中に幾つかの枕を入れて、呼吸をしやすくしてくれた。



四次元ポケットのように、吸入薬や聴診器、指につけるセンサーを鞄から出していく。



『白衣着てなくても医者なんだ。』



『喋らなくていいから、吸える?』



またどこかに電話をかけているようだった。



『持ってきました。』



そう言って入ってきたのは、看護師さんだった。



『指先温めてもらえる?正確に測れないから』



私の冷たくなった手が温かいタオルに包まれる。



素早い吸入のおかげで、発作はすぐにおさまった。



『苦しくない?音聞かせて』



看護師さんがいて、山瀬先生がいる。



病院となんら変わらなかった。



もう少し自分は病院にいた方が良いのかなとも思った。


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