伝えたい。あなたに。"second story"
前回よりは大分、スムーズに進んでいるようで。



でも、



『少しチクッとしますよー』



口ではそんなことを言いながら、顔がこわばっている。この人の場合はチクッとじゃない、ザクッとだ。




看護師さんはどこかに行ってしまった。
今までで、一番危機的な状況かもしれない。



もし、何度も失敗されたら。
血を全部抜かれてしまったら。



床にはえつくばってでも逃げよう。
逃走ルートを詮索する。



腕に針が刺される。
つい、厳しい目線を送ってしまう。



長い沈黙が流れ、



『うーん。血管が細いね、入らないや。』



入らない!?



いつのまに、そんな言い訳を覚えたんだ。
他の人はみんな一発でいれてくれるのに。



なんとか、これを持ち堪えることに神経を注ぐ。
なんど失敗されても。



『もう片方の手でやってみますね。』



『はい。お願いします。』



今まで、自分で差し出したことのない手を、差し出した。



『ごめんね、もし具合悪くなったら教えてね。』



私が自分でいうときは、ほとんど手遅れの時。
と、自分でも気づいている。



『はい。』



もう一度、針が刺される。
さっきより、痛い気がする。



それなのに、針が入っている時間はずっと長くて。
自分の鼓動が速くなっていくのを感じる。



『ごめんね、もう一回刺しなおしていい?』



『はい、、。』



まただ、また繰り返される。
大きく息を吐く。



『本当ごめんね。』



答える気にもなれない。
再び、針が刺される。



頭に血が上る感覚がある。
すぐに、血の気がひいていく感覚に襲われる。



同じだ。採血の針を刺したまま倒れるなんてごめんだ。しかも、私が倒れても助けてもらえるとは限らない。
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