伝えたい。あなたに。"second story"
泰志へ



私はあなたに、何か残してあげられたかな。
母らしいことを何か、してあげられたかな。

私は自分のことばかりで、ろくにあなたのことを見ていない時もあった。母として、至らない部分ばかりだったわ。
お母さんは、医師を志したときから、誰かの役に立ちたいと誰よりも努力してきたつもりだった。でも、1番大切な家族を多く犠牲にしたかもしれないと、今になって思うわ。9歳のあなたを残していくことをお許しください。

ごめんなさい。

これまで医者として患者と接してきたけど、患者になって初めて悟ったの。
そしてこれだけは言っておきたいの。あなたとお父さんのことを、世界で一番愛しているわ。

お父さんとお母さんのもとに生まれてきてくれて、
ありがとう。一服に心を込めて。

優子





何があったんだろう。



山瀬先生のお母さんの話は聞いたことがない。



9歳の頃、今から20年前。



患者になったってことは、病気だったのかな。



お茶をしていたのはお母さんだったんだ。



きっと、私が知るべきことではない。



そっと、手紙を元に戻して、部屋を出る。



『あっ。』



『なにしてんの。』



『散策してたの。』



嘘をつくのは辛かった。



『ふーん、何か隠してる顔してる。』



ばれてる、、、。


『そんなことないよ。』



『なんかやばいものでもあった?』



『なんもないよ。』



促されて、もう一度茶室に入る。



『全然使わないんだよね、ここ。』



そう言って水屋に入っていく。



やっぱりあの茶碗に目を向けて。



『ああ、懐かしい。これ。』



先生が蓋を開ける。



気になって、覗き込む。



『わあ、素敵な茶碗。』



思わず声にしてしまった。



『母さんのだけど、使う?』



そんなことできるわけない。



『山瀬先生の大切なものじゃないの?』



『うん、でも俺使わないから、ゆうかお茶習ってたことあるの?』



幼少期、唯一の習い事だった。



『うん、少しだけ。』



『それなら使ったらいいよ、母さんも喜ぶ。』



『でも。お母さんが山瀬先生に残してくれたものでしょ?』



『あ、これ見たの?』



ハッとして、うつむく。



『ごめんなさい。』



『いいのいいの。ここ寒いから向こう行こうか。』



背中を押されて、部屋から出る。











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