シンデレラは王子に攫われる
傷だらけの体、特別可愛いわけでもない顔。誰にも見向きもされないと諦めていた。それでも、愛叶が名前を呼んでくれたことが嬉しかった。同姓同名の人であっても……。

「そう、だよね。愛叶くんは私には釣り合わない」

麗美は涙をこぼす。自分は醜い灰かぶり。綺麗なドレスもガラスの靴も似合わない。愛叶に選ばれることなどあるはずがない。

愛叶のいる東京から、麗美の家まで三時間ほどかかる。こんな遠くに来ることはないだろう。

夢を胸の中に麗美はまたしまい込み、家事に取り掛かった。



そして、夕方。麗美は洗濯物を取り込んで畳んでいた。

母と姉はドラマを見ている。これもいつものことだ。洗濯物を畳み終わったら、夕食の支度をしなければならない。

「麗美!今日の夕食はミネストローネにしてね!」

「生野菜を乗せたらどうなるかわかってるでしょうね?」

テレビを見ながら姉と母が言う。麗美は「はい……」と答えて洗濯物を畳み続ける。早く夕食を作らなければ、また殴られる。もう傷を体に作りたくはない。
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