シンデレラは王子に攫われる
物置から出ると、バシンと体を叩かれる。痛みに麗美が顔をしかめると、「生意気なんだよ！！」とまた叩かれた。

「汚ったな〜！麗美に触っちゃった〜！！」

麗美を叩いた少し年上と見られる女性が言うと、そばで見ていた太った女性がニヤニヤ笑う。

「あらあら大変！早く手を洗ってきなさい！」

「は〜い！」

嘲る笑い声を無視し、麗美は掃除道具を片付ける。そして、キッチンへと立った。

麗美はこの家の奴隷のように働かされている。家族である母も姉も、麗美のことを家族として見ていない。麗美をこき使い、反抗すれば暴力を振るわれる。麗美に居場所なんてなかった。

「……もう嫌だ……」

生クリームをかき混ぜながら、麗美は呟く。その小さなSOSに気付いてくれる人は、誰もいなかった。



その日の夜、麗美は夕食のグラタンを作って皿洗いをしていた。自分のぶんのグラタンはない。麗美が口にするのを許されるのは、残り物だけだ。

「あ！「ミュージック・フェスタ」やってるじゃん！」

グラタンを食べ、コーヒーを飲みながら姉が言う。「あら！じゃああの歌手は出てるのかしら……」と母がテレビをつけた。
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