意識転送
「本当に転送されちゃったね、僕ら」
浩一の目の前で手の平と甲を何度かひっくり返して見せた。
その手をグッグッと握ってみても、僕だし。
触ってみた浩一の腕も、浩一の腕だった。
薄かったり
軽かったり
そんなことは無い。


「おいおいおい。大丈夫なんだろうな。」
「ちゃんと帰れるのか?」
浩一に続いて、ジローまで感動の薄い反応。
「ちょっと!二人とも!もっと感動してよ!」
僕が声を上げると浩一が面倒くさそうに
トレードマークの黒ブチ眼鏡を直しながら
「感動してるさ。ゲームのクオリティもここまできたか、ってね。」
声に起伏がないよ〜。

湯里浩一(ゆざとこういち)は僕の幼なじみ。
伊達の黒ブチ眼鏡が彼のキザさを引き立てる。
小さい頃は一緒にゲームしてくれたのに
いつの間にか
大人〜な感じになってたんだ。


浩一は格好付けで、意地悪で、
言葉も冷たいし、格好付けで、意地悪だけど、
本当は良いやつなんだ。
いつも、鈍臭い僕を気にしてくれるんだ。
格好付けで、意地悪だけど。


このゲームの参加に嫌がるジローを説得してくれたのも、
結局は浩一なんだ。


「さ、こんなゲームとっとと終わらせて帰ろう。」
そう言ったのは、ジロー。


津島ジローは浩一の従兄弟。
で、浩一と幼なじみの僕は、ジローとも幼なじみ。
ジローは学校でだって、僕んちに遊びに来てたって
すぐ帰りたがる。
家が大好きなのかな。
何者にも執着しない浩一とは、とっても良いコンビだと思う。






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