ねえ、理解不能【完】
それなのに川瀬くんは首を横に振って、小さく笑った。
「申し訳なくなんてないよ。俺は逆に、チャンスっていうか、なんていうか.......」
語尾がどんどん小さくなっていって、最後の方は聞き取れなかった。
川瀬くんは私から視線をはずして、目を伏せる。
睫毛が長くて、羨ましい。なんて的はずれなことを思いながら、返す言葉を慎重に見つける。
「川瀬くんが一緒に帰ってくれても、千草と前みたいに戻れる訳じゃないかもしれないの。千草は、私のことなんてきっとどうでもよくて、私が誰と帰ろうが気にしないと思うし。そう、だから、やっぱり申し訳ないよ」
川瀬君がゆっくりと伏せた目を私に戻して、そして、微笑んだ。爽やかとは少し違っていて、わたしは笑い返せなくて。
「旭が白崎のことどうでもいいって本当に思ってんだね」
「え、」
「白崎てさ、旭に対して幼なじみ以外の感情はないんだよね?」
「.......うん、ひとつもない、よ?」
「そっか。旭も今はさ、広野さんいるし、幼なじみの白崎のこと気にしてる余裕ないかもだね」
「そ、だよね、」
「でも、失敗したら、ほかの考えればいいじゃん。一回、俺の作戦にのってみて。部活やってないし、放課後ほとんど予定ないから、本当に申し訳なく思わなくていいから」
「じゃあ、お、お願いします」
若干、川瀬くんに押されてしまった形で、咄嗟に返事をしてしまった。
でもあくまで相談したのは私だから、作戦にはのるべきなんだと思う。
千草と同性の人が言うんだから、信じてみる価値はあるだろう。