ねえ、理解不能【完】





じっと千草のほうを見ていたら、千草も私に気がついたのか顔を向けてくる。



相変わらず、眠たそう。不機嫌丸出しで爽やかの対極をいく。川瀬くんとは大違い。


それなのに、合わさった瞳にトクン、と心臓がなる。しばらく眠たげに私を瞳にうつしていた千草だけど、ふいと顔をそむけて一人で歩き出してしまった。



チャンス、なのかも。

今までの最悪な状況を省みずに直感でそんなことを思ってしまい、深く考えることもなく、私はぐっと手に力を入れて、離れていきそうな後ろ姿に声をぶつけた。




「千草、お、おはよう!」



朝の静閑な住宅街に、情けないくらい不安げな私の声が響く。心臓がうるさい。ジリジリ照り出すお日様も不愉快。


ーー無視したらここで大泣きするんだから。


幼稚くさいことを考えながら立っていたら、千草の背中が止まる。


それから、顔だけ私の方に向けた。



「おはよ」


不機嫌ではあるけれど、ちゃんと返してくれた。


......すごく、嬉しい。




心臓はまだうるさい。だけど、顔はゆるんでしまって、たかが挨拶を返してくれただけなのに、笑顔になってしまった。



単純で、簡単な私。

だけど、嬉しいものは嬉しいんだから、仕方ない。




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