ねえ、理解不能【完】
そうやって困り果てていたら、川瀬くんは目を細めて私との距離をさっきよりもぐっと詰めた。
「ーー俺が教えてもいい?」
川瀬君が私の顔をのぞき込む。視界に広がった川瀬くんはすごく大人びた表情をしていて、なんだかうまく息ができなくなった。
さっきまで頰がほんのり赤かったはずなのに。
あの照れた顔はどこにいったのかな。
私の頰はまだ赤いままで、瞳をそらすこともできないから、川瀬くんのことしか考えられない。
「俺が白崎に恋を教えたい」
そういって、瞬きをした川瀬くんは、爽やかとは少し違った。
「だめ?」
吸い込まれる。
まるで、川瀬くんに、誘惑されているみたいだ。
私はどうすればいいのかな。
初夏の風が私の背中を押す。
音は、しなかった。
「だめ、じゃない」
頭で考えるより先に口が動いた。
理性は川瀬くんの瞳に奪われていた。
だけど、違う風が私の首をさらりと撫でて、すぐに後味の悪い後悔が胸に広がっていく。