ねえ、理解不能【完】
.......これから、どうしよう。
顔を手のひらで包む。
さっきまで熱をもっていたであろう頬はもういつも通りの温度を取り戻していて、心臓の音も知らない間に元通りになっていた。
生まれて初めて、彼氏ができた。それもとびきり爽やかで素敵な男の子だ。
恋を教えてくれる、って言ってくれた。
嬉しかった。
それだけでいいはずなのに、頭の中にちらつくのは、千草が時々見せる笑い顔で。
本当になんでこんな時まで登場するかな、ってため息をついてしまう。
いつも眠たそうで不機嫌なことが多いくせに、私にだけ時々みせてくる無防備なやつの笑い顔が何かの錘みたいに感じられて。
その笑顔を川瀬君のさわやかな笑顔に頑張ってすり替えようとしたら、不覚にも泣きそうになって、止めておいた。
千草、私、川瀬君に恋するんだよ。
いいの?
.......千草が嫌なら、やっぱり、川瀬くんのこと振ってもいいよ。
なんて。
最低最悪だ。
この期に及んで、なんてことを考えているんだろう。
川瀬くんの消えた先から視線をずらして、千草の部屋を見上げる。
カーテンは、きっちりしまっていた。
ーー あの部屋には、一生行かない。