ねえ、理解不能【完】
その質問から逃げさせてくれない妃沙ちゃんは、美しい顔をして結構手厳しいね。
パイ生地を無意味にペタペタと触りながら、知らぬ間に唇をとがらせてしまう。
正直な気持ち。どうしたいか、だけを考えるなら。
「ー別に、あげたいとは思わない、かも」
言った途端、それが本当に思っていることなんだって、認めなければいけなくなった。
手を繋いでくれたら、繋ぎ返さないとって思う。
抱きしめてくれたら、応えないとって思う。
恋を教えてくれるという優しい人に、はやく好きにならないとって思う。
あの日から、義務感、だけを選びとってきたはずわないけれど。
もし、そうだったなら。
その義務感がなくなってしまったら、きっと私はもうどこにもいけない気がするの。
「そっかあ、難しいね、青」
妃沙ちゃんは少しだけ寂しそうに笑ったけれど、それ以上は何も聞いてこなかった。
本当に、すごく、難しくて嫌になる。