ねえ、理解不能【完】
「美味しいね、」
妃沙ちゃんも、もぐもぐと口を動かして幸せそうな顔で、食べている。
妃沙ちゃんのもぐもぐする姿も、違う意味で美味しいよ。絵になる。写真におさめたい。
妃沙ちゃんは、アップルパイに小さな口でかぶりついて、嬉しそうに目を細めている。
口の端にパイ生地がくっついていて、可愛い。高嶺の花な妃沙ちゃんの、ぬけているポイントだ。
「なんで、妃沙ちゃんって彼氏いないのかな、」
こんなに麗しくて、それでいて可愛いのに。
不意に言葉にしてしまった今まで何十回と思ったことに対して、妃沙ちゃんは首をすくめた。
「作る気がないからだよ」
「えー、なんで?好きな人は?」
「ふふ、いるよ。大人の人だけど」
妃沙ちゃんが、恋する女の子の表情を浮かべる。私だったら、こんな顔されたら、イチコロなのに。好きなのに付き合う気がないってどういうことなんだろう。
「叶いそう?」
「ううん、叶わない」
あっさりとそう言ってのけた妃沙ちゃんは、口の端についたパイ生地を器用に舌でとって、悲しいことを言ってるはずなのに、さっぱりとした表情で笑った。