ねえ、理解不能【完】
だけど、そんな黒い感情が渦巻いてる中でも、一つだけひっかかることがあるんだ。
私だってずっと千草の部屋にきていたの、そういうことは一切なかった。
部屋に入ったらそうなるって言ったのに、私と千草だって女と男だったのに、本当になにもなかった。
昔の私はそういう風に千草のことを見たことがなかったし、ありえないって思っていたけれど、今考えたら、どうにも心に引っかかってしまって。
「……千草、私にはしなかった」
こんなこと言うべきじゃないってわかってる。
千草の答えだって、分かりきってるのに。
どうして。ってそんなことを尋ねずにはいられなかった。
はぁー、と、だるそうにつかれたため息にずきり、と胸が痛む。もう面倒でしかないんだと思う。
さっき私を抱きしめて頭を撫でてくれた時とは違って、千草はもう優しさはくれない。
私の恐怖が和らいだって分かってるからだろう。
こんなことなら、もう少し怖いふりをしてしておけばよかった、なんて心の隅っこで思ったけれど、それは千草に対する最低な裏切りだからやらない。