ねえ、理解不能【完】
「青は違うから」
「.......どういうこと?」
「ー幼なじみ」
「...........、」
「お前がそう言ってた、ずっと」
伏せられた目に、もう瞳は重ならなくて、千草の気だるげな雰囲気の中で、ほんの少しの切なさみたいなものを感じた気がして、だけどそれはたぶん私が願ったただの幻だった。
千草が腰をずらして私からほんの少し離れる。
後悔、しかない。
あのときこうしてればよかった、なんて“IF”ばかりが次々浮かんでは消えていく。
「う、ん。…そうだったね、」
幼なじみはキスとかそれ以上のことをする関係じゃない。
男と女だろうが、何であろうが。
それをずっと言い張っていたのは、私の方だった。
もう今では幼なじみなんて胸を張れる関係のままであるかも分からない私たちだけど。
私は、ゆっくり立ち上がる。
震えは完全におさまっていたし、恐怖よりも悲しさの方が勝ってるんだからきっと大丈夫だ。
「千草、ありがとね。…帰るね」
千草は何も答えずに、ただ胡座をかいたままベッドによりかかって絨毯を見ていた。
何を考えているのか分からない表情と、立ち上がって再び鼻腔をくすぐった甘いバニラの匂いに、私はたまらない気持ちになって千草の部屋を出た。