ねえ、理解不能【完】
私は一度深呼吸をして、恐る恐る電話に出る。プツ、と音がして電話の向こうと繋がった。
「……っ、」
「………」
だけど、話す気配はなくて。電話特有のノイズが微かに聞こえるだけだ。
かけてきたのは千草なのに。そう思ったけれど埒があかないから、自分から話すことにする。
「……もしもし、千草?」
仰向けになっていた身体を起こして、ベッドの上にしっかりと座りなおす。携帯をもつ手が震えそうで、じん、と身体に熱がうまれる。
「……うん、俺」
しばらくの沈黙の後、ノイズにぽつんと掠れた低音がうかんだ。電話口から聞こえる千草の声は、いつもより少し低いように感じて耳が熱くなっていく。
「なに、どうかした?……電話なんて、初めてだよね」
顔が見えないのに。ううん、顔が見えないから、うまく話せない。
しどろもどろになった私とは違って、いたって冷静に千草は言葉を返す。
「どうなったの」
千草が聞いているのは間違いなくゆうのことだろう。泣いてすがったのは私だけど、わざわざ電話までかけてくるなんて。
そういうのは本当にずるい。