ねえ、理解不能【完】
「本当、ばかじゃねーの」
冷たい声音。
その後に、盛大なため息の音が聞こえて。
びく、って肩に力が入る。
「……ば、馬鹿じゃないし」
「なんで怖い思いさせられた相手のことを信用できんの」
「だって、……大丈夫だもん、きっと」
「じゃあ、もう一回襲われてくれば」
「………え、」
「いーよな、大丈夫なんだろ。襲われても文句言えないから、お前」
馬鹿にするように、そう言った千草。
饒舌だ。きまってそういう時の千草は、ひどい顔をしている。
電話越しだから表情をうかがうことができないけれど、声音でそれがはっきりとわかる。
私は千草の言葉にかっと頭に血がのぼって、心の奥に怒りの感情がうまれる。
言っていいことと悪いことがあるよ。そういうことは、絶対に言ってほしくなかった。
千草に言われたくなかった。
だけど、なんて言い返せばいいのか分からなくて。そもそも、こんなことを言われた後じゃ、何で千草が電話をかけてきたのかということも分からなくなって。
口を開くことができずに、黙ったままでいた。