ねえ、理解不能【完】
それから放課後までゆうと目が合うことはなかった。
私が見ないようにしていたというよりは、ゆうが私の方を見ることがなくて。
気の利く妃沙ちゃんが、私の席まで話しにきてくれたことで、ゆうの席の近くに近づくこともなかった。
私とゆうが付き合っていたことは、いつのまにかクラスのほとんどの人が知っていたから、みんなにはまだ付き合ってるって思われてるだろう。別れたことを知ったら、驚いてしまう人もいると思う。
休み時間、トイレに行きたくて妃沙ちゃんと廊下を歩いていたら、一度だけ広野みゆちゃんとすれ違ってしまった。
心の準備もしていなくて、ドキドキ、と心臓が嫌な風に音を立てている中で、広野みゆちゃんは、私を一瞬だけきつく睨んで横を通り過ぎていった。
天使のかけらもない怖い悪魔みたいな表情。
でもそんな顔をさせたのは私で、本当の悪魔はたぶん私。
通り過ぎたときに千草の部屋で香ったのと同じ甘いバニラの匂いがして、思わず息を止めてしまう。それから、ぎゅっと胸が痛くなって俯いた。
妃紗ちゃんは、そんな私の頭を撫でてくれることはしなくて。覗き込んで、ぎゅっと眉間にしわをよせながら言ったの。
「青、睨まれて当然だからね。そのくらいのことをしたんだよ」
ただ甘やかすだけじゃない妃紗ちゃん。
千草に泣いてすがったことを言ってるんだと思う。
私は、小さく頷く。
ちゃんと分かってる、広野みゆちゃんに最低なことをしてしまったこと。
だけど、絶対に謝らない。