ねえ、理解不能【完】









社会資料室の教室札が見えてきて、足取りが重くなっていく。だけど、前を歩く千草の足取りは変わらないから、ついていくしかない。


どきどき、変な風に早まる鼓動。ゆうの顔をちゃんと見ることができるかさえ、もう分からなくなってきた。




「何かあったら、呼ぶ。約束して」

「え、」

「ここにいるから」






千草が、社会資料室の前で立ち止まって、壁によりかかった。少し上目で私の瞳をとらえたその表情は相変わらず無に近かったけれど、声は柔らかくて。





ーーここにいるから


千草の言葉が、頑張れ、って言ってるみたいに聞こえて、ひどく安心させられた。




私はこくりと小さく頷いて、隣の教室へと向かう。



震えそうな足とスクバをもつ手。千草がいる、ということをお守りみたいに抱えてひとりで歩く。


心拍数は尋常じゃないけど、ここで終わらせるんだ、って思ったら、すこし勇気みたいなものも湧いてきた。




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