ねえ、理解不能【完】
ゆうは教卓によりかかるのをやめて、私の方にしっかりと向き直った。
私は俯かずに、ゆうの瞳を見つめる。
くりんとした少し垂れ目なその目が、嬉しそうに細められたり、熱っぽくなったり、そういう記憶を思い出すのは、なんでこういう時なのかな。
傷つけてくれてありがとう。
そんなことを思っていたはずなのに。
いまそうやって言えたら、私は本物の悪魔になれるのに。
対峙したら、到底そんなことは言えやしないし、思うことすらできなかった。
瞳を合わせたまま、しばらく沈黙が流れる。
そして、ゆうが小さく口を開いた。
「青、」
窮屈そうに掠れた声。
私は、うん、と返事をしようとしたけれど、声がうまく出せずに頷くだけになってしまう。
「本当に、ごめん」
深々と頭を下げたゆうの姿は、ひどく弱々しくて頼りないけれど、意思だけは強そうな口調だった。
頭を下げた時に髪がさらりとゆれて、その隙間から耳がのぞく。
もうそこには私が選んだブルーのひし形ピアスはなかった。