ねえ、理解不能【完】
「そういえば、これ、一人で来た?」
私は、ううん、と小さな声で否定して首を横にふる。
もうすでに泣いているけれど、さらに泣いてしまいそうで俯いて地面をじっと見つめる。
「……旭?」
ゆうの掠れた切なげな声に、私は答えようか答えまいか迷ったけれど、誤魔化すことなんて到底できそうになかったから、ゆっくりと頷く。
そうしたらゆうが、はっ、と鼻からぬけるような軽い笑いをこぼして、「そっか、うん。…そっか」と呟いた。
それから、静かに扉をあけて教室を出ていく。すぐに後ろ手で閉められた扉は、ピシッと小さな音を立てて、教室は静まりかえる。
取り残された空間にずっと立ち尽くしているのも苦しかったから、近くの椅子に座って机に顔をふせた。
じんわりと迫りくる涙に、今はひとりでこの涙と向き合おう、と決める。
しばらくは、こうしていたい。
千草には、私とゆうのやり取りは絶対に聞かれていて欲しくはないなと思った。ゆうと私だけのことだ。
ゆうに傷つけられて、傷つけたのは私だけど、だからゆうの傷は私だけが受け止めるべきなんだって、最低だからこそ、そんな義務感が芽生えて。
千草のことを考えてのことじゃない。
ただ、ゆうのことを考えて、
そう、思った。