ねえ、理解不能【完】
ひねくれた恋心 (side千草)
side 千草
◆
扉越しのやり取りはあまり聞こえない。
時折、断片的に声が届くけれど、内容まで知ることはできない。
聞く耳をたてるつもりはさらさらないけど、ただ、やっぱり、ムカつくけどすごく心配だ。
それでも叫び声や泣き声はしないから、青は川瀬に何もされてないんだろう。
震えて俺のところにきたくせに、それでも川瀬を信じる青の馬鹿さに苛立って、軽蔑さえしていたけれど、あながち青の推測も間違ってなかったんだな。
壁にもたれかかって、天井を仰ぎ見る。
昼に、帰れないって伝えたら、怒っていた。
みゆのことを考えると、煩わしさばかりが膨らんでいく。
最低だ。でも、そんなの、みゆと付き合うずっと前からだ。青が隣で呑気に笑っていたころから、ずっと。俺は、青以外の女の前で最低じゃなかった時なんて本当はない。
長い息をゆっくりと吐いて、目を閉じると、そこには震えて泣きじゃくる青がいた。
守りたい、も、守らないと、もちょっと違う。俺に縋った青を自分が守るのは当たり前だ、と自分から離したくせに思ったんだ。
あのとき、抱きしめる、以外の選択肢がなかった。頭をなでる以外の選択肢も、大丈夫ってなだめる以外の選択肢も、全部なかった。
いつだって、青にとっては簡単で都合のいい幼なじみのままなんだって昔もその時もちゃんと分かってた。
でも、青が泣いて縋ったのが、俺だった。
そのことに喜びを感じてしまった自分にどれだけ絶望したか、拒絶した俺に泣いて縋るほどのことを青にした川瀬にどれだけ腹が立ったか。
誰も分からないだろう。