ねえ、理解不能【完】
「もう、二度と傷つけんな」
これも、俺が言うことじゃないって知っている。だけど、言わないと気が済まなかった。
「わかってるよ、……でも、」
いつの間にか川瀬は悲痛な顔をやめて、俺を真っ向から睨んでいた。そういう顔する資格なんて本当はお前にない、って言う資格も俺にはない。
もう川瀬にエネルギーを使いたくなくて俺は睨み返さず、鬱陶しそうに川瀬に視線をよせる。
「傷つけてるのは、お前だ」
「は、」
「旭、お前はずるいよ」
川瀬はそう言ったと思ったら、俺の横を通り過ぎていった。
川瀬の後を視線が無意識に追ってしまう。廊下を曲がって消えていった後ろ姿に、心の中でさえ罵声を浴びせることはできなかった。
川瀬は、きっと。
俺の気持ちに気づいている。