ねえ、理解不能【完】
「……」
「……、っ」
「……」
それからは、また沈黙で。
私から話しかけなければ、千草が話すことはないだろうし、今さら朝の寝癖の話をまた引っ張ってくるわけにもいかないし、まぁ、まだ寝癖は直っていないんだけど、とにかく話題がなくて困る。
…会話がなくても隣にいるだけで幸せ。なんて、それは否定しないけれど、話してない間に私以外のことを、ーー広野みゆちゃんのことを、考えていたら嫌だなって。話しているときは、私のことだけを考えてくれるんじゃないかって。
バカみたいな独占欲。嫉妬していい立場でもないし、独占欲を持つ資格もなにもないのに。
口を閉ざして話す気配のない千草を横目に、はぁ、とため息をついたら気持ちが入りすぎたのか、思ったより大きなため息になってしまって、瞬時に、やばい、と焦りながら隣を見上げる。
そうしたら、その横顔が目だけを斜め下にすべらせるように私に向けた。
「なんでため息つくの」
千草の難しい複雑な声音。責めてる、とはちょっと違う。怒ってる、ともちょっと違う。当てはまりそうなところから、少しずつずれているようなその声音の正体は分からなくて、もどかしい。
それに。
よく考えたら自分だってため息ばかりつくくせに、私だって理由を教えてほしい。
もどかしさと一緒に腹立たしさも湧いてきて、その気持ちのまま口を開く。
「……別に理由とかないよ」
「…あっそ」
斜め下に見下ろすように視線は合わせられたまま、ボソリとでてきた千草の相槌に、無意識に唇が尖ってしまう。
……だから、“あっそ”って何なんだ。