ねえ、理解不能【完】
「…青、一緒に帰るの嫌?」
少しだけ首をかしげた千草。
問いは思いがけないもので、千草がそんなことを気にしているのも、それでもって私に聞いてくるという行為も、新鮮だと思った。
嫌だなんて、そんなこと思っているわけないじゃない。
好きで、苦しくてやめたいのに、それでも好きな相手と一緒にいるんだ。嫌なはずなんてない。
だけど、どう返すのが正解なのか分からない。
気持ちがばれないように、嘘ついて 嫌だ、って言ったら、きっとここで別々に帰ることになってしまうだろうし。
かといって、嫌じゃない、って言って、むしろ嬉しい、って隠したい気持ちまで伝わってしまったら困る。
私は千草の質問になかなか答えられなかったけれど、一番無難な言葉をひらめいて、そっと口を開く。
「…ふつう、かな」
過不足のない言葉。
この言葉なら裏にある気持ちなんてなにひとつ伝わらないんじゃないかな、って。
ちら、と千草の様子をうかがったら、思っていたよりも不機嫌な雰囲気をまとっていて、ふつう ってちょっと “嫌”に傾いていたかもしれないと不安な気持ちが芽生える。
千草は、前を向いてしかめっ面をしたまま、
「あっそ」
って、また感じの悪い相槌を私によこした。
さっきから、"あっそ"ばかりだ。
私のことなんてどうでもいい、って言ってるようにしか聞こえなくて、嫌だよ。
聞いてきたのは、千草なのに。
「……あっそ、だよ」
むっとした顔がたぶん私にも伝染ったんじゃないかなと思う。自分の声は思ったより低くて、まるで可愛げがなかった。
感じ悪いのは、お互い様だ。