ねえ、理解不能【完】
千草が、横目で私を見る。
細められた目を、もっとつり目になって私以外の女の子にモテなくなっちゃえ、なんて効力ぜろの呪いをかけながら、見つめたら、むっとしていたはずの千草の表情は柔らかくなる。
「何で怒ってんの」
「…別に怒ってない!ふつうだし」
「どこが」
「あ、あっそ!」
「は、返事おかしいだろ」
不意に千草が、ふはって吹き出すように笑った。
たった今まで不機嫌だったくせに、いつもなかなか生まれない笑った時にできる目元のしわがあらわれる。
私は返事をすることも忘れて、笑っている千草をじっと見つめてしまう。
この男の、どこがクールだって言うんだ。
さっきのクラスメイトの女の子にも、その他大勢の女の子にも教えてあげたい。
千草はこんな顔で笑うんだって。笑うとつり目が少したれて、目にきゅっと皺がよるんだって。
……ううん、やっぱりだめだ。教えてあげない。
「(好きだなあ、)」
広野みゆちゃんも、この顔の千草をたくさん見たのかな。この顔以外で笑う私の知らない千草の顔ももしかしたら見たのかもしれないね。
笑って、怒って、切なそうにする、そういうたくさんの千草を、当然のように知っているのかな。