ねえ、理解不能【完】
昼休み、化学準備室に用事があるらしい妃沙ちゃんとは別々にお昼ご飯を食べて、5限が始まる前にトイレにいくことにした。
かちゃ、と鍵をかけると、すぐにその向こう、洗面所のところから数人の女の子たちの声が聞こえてくる。
髪の毛を直しにきたのかな、なんて用を足しながら、ぼんやりと思う。
きゃはきゃは、って高くて可愛い笑い声をトイレに響かせながら、なにやら盛り上がってる様子で。
それが興味のない会話なら、というか、いつもなら、用を済ませたらさっさとトイレからでるけれど、
「ねぇねぇ、わたし聞いたんだけどねっ、千草くんさぁー、」
聞き慣れた言葉に、思わず固まった。
鍵を開きかけた微妙な体勢で、不意に耳に届いた“千草”という言葉に、トイレから出るに出られなくなってしまう。
鍵から手を離して息を潜める。
そのままの体勢で、洗面所の方に耳を近づけて誰かわからない女の子たちの会話を盗み聞きすることにした。
心臓が速いスピードでせわしなく動きだす。どんな言葉が続くのか気が気じゃない。
「旭くん?」
「うん、ゆり、好きって言ってたじゃん」
「だってクールで超かっこいいんだもん。告白しても、絶対振られそうだから、こっそり見てるだけだけどねー」
「でも、結構遊んでるって聞くよ?二股とかはしないっぽいけど、なんか気まぐれで来るもの拒まずな時期があるんだって」
「ええ!そうなの?!その時期、狙おうかなあ。あ、でも今みゆちゃんと付き合ってるんだったー」
「ふふっ、それがなんと、」