ねえ、理解不能【完】
私の家の前で、千草は立ち止まった。
私も俯いたまま、歩くのをやめる。
向き合うような状態で、きっと今、千草は私を見ているんだけど、本当に、“私”のことを見ているのかな。
だれかを私の奥に透かしているでしょう?
千草、その子のことを苦しいくらいに想っているんでしょう?
ぎゅ、と唇をかんで、千草を見上げる。
不機嫌というよりも無表情に近い顔のまま千草は何か言いかけたけれど、中途半端に口を閉ざして、それからまた、唇をひらく。
「…じゃあ、明日」
そして、そのままくるり、と向きを変えていってしまう千草を、ちょっと待って、と呼び止めて、シャツの裾を弱くつかんだ。
そうしたら千草は足を止めて、振り返る。
ーーー絶対に、泣かない。
そんな決意をして、私は恐る恐る千草を見上げる。
「なに、」
呼び止めたことに驚いたのか、わずかに大きく開いた千草の瞳とあわさる。
こうやって瞳が交わるのも、最後かもしれない、なんて思ったら、胸の奥がきゅう、と痛んだけれど、今は、そんな苦しさを抱くべき時じゃないんだ。
すぅ、と、大きく息を吸って、そっと口を開く。