ねえ、理解不能【完】







自分がどうして抵抗しないのか、分からない。


千草の私を引き寄せる力が強かったのは最初だけで、

もう今は、引きはがそうと思えば簡単に引きはがせるし、キスをやめて顔を背けようと思えば、それだってできるほどの力でしか千草は触れていないのに。





だけど。


ーー千草とのキスを、やめたくない。




これが、きっと、
千草とする最初で最後のキスだ。



広野みゆちゃんのことを想ってるはずの千草と、千草のことを想う私。


矢印はひとつも交わらないのに、熱だけを共有して、矢印のさきがほんの少しだけ交わったなんて勘違いをして、私はこんな時なのに哀しいほどに満たされて。




千草が、角度をかえて、さっきよりも深く唇を押し付けた。

それに応えるかのように、私も千草の唇に触れる。



シャツの裾を弱々しくつかんで、ほんの少し踵を浮かせて。




キスは、大好きな相手に自分の「好き」を伝える行為で、私の気持ちがこの触れ合った唇を通して千草のこころに届いて、

広野みゆちゃんのために私を利用したことを少しでも後悔してくれたなら、もう、それで十分だ。


言葉で伝えるつもりも、勇気も何もないから、実らない初恋の締めくくりは、これでいい。







「………っ、」




そして、

しばらく夢中になってあわせていた唇がゆっくりと、離れていった。



頰に添えられていた手も、くっついていた身体も、私から離れていく。






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