ねえ、理解不能【完】
ーー泣いて、ごめんね。
千草が静かに泣いている私を、泣きそうに切ない顔で伏し目がちに見下ろした。
千草の唇のはしには血がついていて、きっと私の血がついてしまったのだと思う。
「……なんで、拒まないの」
私は涙を止めるために頑張って唇をかむけれど、千草の声は苦しそうで、私を責めるような言葉のくせに、自分を責めてそうな口調に、また目の奥で熱いものがせり上がる。
ーーー好きだからだよ。
千草のことが好きだから、拒まなかった。
違う。
失うために選ぶのは、
この言葉じゃない。
「……幼なじみ、だから」
違う。
この言葉も、間違ってる。分かってる。
だけど、好きだって伝えるよりは、マシだと思ったの。
私の言葉に、千草は、今までで一番傷ついたような顔をした。
それから少しだけ離れていた距離をまた埋めて、私の襟元を弱くつかむ。
千草の指先の震えが、心臓に、届く。
そして。
「幼なじみは、キスなんてしねーんだよ!!」
いつもの無気力さからは想像できないほどに声を荒らげた千草に、身体が強張る。
荒い口調と、歪んだ顔。
ひどく、怒っている。
……ううん、違う。
本当は、そうじゃない。
千草はこころの中で、
私と同じように、泣いてるんだ。