ねえ、理解不能【完】
涙は、果てもなく溢れている。
溢れて、溢れて、それに紛れて、好きの気持ちも、溢れて、千草の胸をぬらす。
___私は、カモフラージュじゃない。
___千草の好きな人は、広野みゆちゃんじゃない。
とくんとくん、って鼓膜に直に響く千草の心臓の音は、そう言ってくれてるように聞こえたんだ。
「話したいこと、ある」
「う、ん」
「……言わないと、何も伝わんないらしいし」
千草の温もりが離れて、身体を包んでいた甘い痛さからほんの少し解放される。
と、思ったら千草は私の手のひらに自分のを合わせて、そのまま自分の家の方に歩き出した。
千草の手のひらはじんわりと熱くて、だけど、繋ぐ力は優しくて、その心地よさに、かすかに残った唇と身体の熱が甘く融解されていく。
それで、
やっと、
千草が切なそうにする本当の意味が、わかった。