ねえ、理解不能【完】
涙を止める防波堤は、あっという間に崩壊した。
溢れるとか、そんな柔な次元ではなく。
千草のための涙の海を私は隠し持ってたんじゃないか、ってそのくらいとめどなく流れてくる。
だって、もう、どれだけ泣いて呆れられてもいいんだ。
好き、ってきっと、そういうことだ。
私は千草に包まれていない自由な右手で、
震えながらも千草の頰に触れる。
「………ぅうっ、ひ、広野、みゆちゃんのところなんて、もう、いかないでっ……」
「いかない」
「……うぇぇん、隣に、いて……っ」
「…いるから」
子供みたいな幼い泣き声に、千草はなだめるように目をゆるく細めて、短くて だけど足りないところなんてひとつもない返事をくれる。
鼻水までたれてきて、きっと最高に不細工な泣き顔だけど、それでさえ、なんだかもう千草には隠したくなくて、千草を見つめる。
千草にありったけの気持ちを伝えたいのに、うまく伝えることができなくて、苦しい。
だけど、その苦しさは、今までとは全然違っていた。
「あー、…無理だ。……ほんとに、好き」
「……うんっ、………っぅ、」
「…青は俺のことどう思ってんの」
「……好きだよっ、……っ、私だっておかしくなるくらい、千草が、好きっ…」
おかしくなるくらい、なんて嘘。
本当はもうたぶん、おかしくなってる。
本当? って音にはせず、唇だけでそう私に問うた千草に、わたしは大きく頷く。