ねえ、理解不能【完】
重なった手のひらの間で、湿った汗を感じたけれど、それでも千草の手を離したくはなかった。
ずっと、触れていたい。そんな甘えるみたいな感情は、恋を知って、はじめて抱いた。
かまってほしいから とか さみしいから とかそうじゃない。
愛しいから触れていたい、って、むずがゆいけれど、たまらなく幸せで。
それでその気持ちのまま、触れられていることも、本当は奇跡なんだってもう知ってるから泣きたくなる。
「…青が俺のこと好きって思ったのって、いつなの」
千草が私に寄りかかっている。
私も千草に寄りかかって、肩に頭を預けていた。
少しだけずれたふたつの心臓の音が、心地いいんだ。
「……千草が広野みゆちゃんに、キスしてるのを見たとき、かな」
「…あのときなんだ」
「びっくりして、それで腹が立って、嫌いって思おうとしたら、なんかね、その瞬間に、私は千草のこと好きなんだって気付かされたんだよ」
千草は、へー、と興味なさげに相槌をうってきたけれど、その顔はどこか嬉しそうで、やっぱり千草って少し性格悪いよね、って思いつつ、自分ではきっと無表情でいるはずなんだろうな、と自分でも知らないうちに嬉しそうな表情になってる千草のことを考えるとなんだかその性格の悪さでさえ愛おしかった。
「ーーあの時、俺でいっぱいになればいいのに、って思ってた」
「……まんまといっぱいにさせられたよ」
「…あっそ」
また、だ。
“あっそ”って、愛想のかけらもない千草の相槌。
だけど、前と同じ苦しい気持ちにはならなかった。千草が私に関心がないわけではいんだって、もう知ってるから。
「千草は、いつ私のこと好きになった?」
「…覚えてない。けど、」
「……けど?」
「青よりは、ずっと前から好き」